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2005年8月29日 (月)

ゴール裏物語 プロローグ

始まりは94年の夏だった。

 

地元新聞のスポーツ欄に“ミクニサッカー部、カレカと対戦”と題の付いた記事に目を通した俺、菅野タクマは、ブラジルの有名なサッカー選手を生で見られる貴重なチャンスを得た。イタリアでも活躍したブラジル人フォワード、カレカは去年からJリーグ昇格を目指す「柏レイソル」でプレーしていた。“ミクニサッカー部”とは地元の『ミクニフーズ』という健康食品の開発・販売会社のサッカー部のことで、この年からレイソルも所属するJFL(ジャパンフットボールリーグ)の再編に伴い、同じリーグに所属することになった。記事はその直接対決についてのプレビューだった。

 

 当時、地元の鴨川市に適当な競技場を確保できなかったミクニサッカー部はホームゲームの度にわざわざ成田市まで出張していた。俺は暇だったことと、外国人スタープレイヤーを生で見られるということで試合を観に行った。高校までサッカーをしていたのでJリーグには最初興味を持ったが、鴨川に住んでいては東京にJリーグの試合を観に行くチャンスはめったになかったので興味は薄れ始めていた。

 

 レイソルには既にサポーターなるものがいた。工事用のヘルメットを被っている者までいて理解できない部分もあったが、全員が飛び跳ね大声で選手やチーム名を叫ぶいわゆるサポータースタイルの応援も生で観るのは初めてで多少感心した。対する地元ミクニサッカー部には社員中心の臨時応援団がいた。スタンドに座りメガホンを叩くという昔からのスポーツ応援スタイルそのものだった。俺は応援団の近くに座って観戦することにした。

 

 試合はかなりの接戦になった。圧倒的に攻勢なレイソルに対し、ミクニサッカー部は守備を固めカウンターで応戦した。試合は両者無得点のまま後半に入った。前半、カレカは決定的な得点チャンスをミクニのGKに防がれていた。ミクニにはまだ得点チャンスはなかった。

 次第に観客の応援も焦りと緊張感を帯びていくなか、ミクニのMFが放ったロングシュートが柏ゴールのクロスバーに命中して跳ね返った。その瞬間からミクニを応援する観客の心に“勝てるかも”という気持ちが芽生え、応援は熱を帯び始めた。いつのまにか俺もその熱気の中に取り込まれ始めていた。

 

 2度目のチャンスが来た。縦方向のスルーパスがレイソルのディフェンスの後ろに抜け、ミクニのFWが先に追いついた。俺の周囲全員が立ち上がり、俺も思わず立ち上がった。GKと1対1の場面。FWがシュートを放つ。だがシュートはFWの足元に飛び込んだGKに弾かれてしまった。大きな歓声とため息。だが“勝てる”という確信に近い雰囲気が俺の周りに充満していた。

 “ミクニ!!(チャチャチャ)ミクニ!!(チャチャチャ)”誰かが応援のリードを勝手に始めた。皆がそれに併せてコールを叫び始め、いつのまにか俺も叫んでいた。

 

 試合は残り5分を切ろうとしていた。選手達は疲れて動きが悪くなってきていた。中盤で不用意なパスミスが出て、レイソルの速攻が始まる。サイドに展開されクロスボールがゴール前にあがった。その時、カレカがミクニDFのマークを一瞬外しゴール前に飛び込む。カレカが放った鮮やかなヘディングシュートはゴールに突き刺さった。カレカはテレビで観たことのあるブラジル流のダンスを披露し、ゴールをアピールしてみせた。

 「あーっ」。大きな悲鳴とため息。膝に手をやるミクニの選手。それでも誰かが「まだまだぁ」と声を荒らげる。応援は再開する。しかし、疲れていたミクニは同点ゴールを奪えないまま試合は終わった。

 

立ち上がって応援していた連中は皆、幾分がっかりした表情を浮かべ微笑みあった。“おしかったね”“あれが入ってたら”とか感想を語り合っていた。殆どお互い初対面だった。

競技場を出ようとするときだった。何気なく出た俺の一言は、他でもない俺の人生を変えてしまう。

「次の試合も来ます?」

いまだに俺は、何故あの時あんなことを言ってしまったのか思い出せない。

次の試合から俺達のサポーター活動が始まった。

 

  

あれから2年。あの試合のとき立ち上がって応援していた人間はもう俺以外みんな去っていった。次の試合以降に応援に参加した人もいたがこれも殆どこなくなった。2人を除いて...。

 ユウタロウは翌年の最初に加わった。最初は彼女と見に来ていたのだが、ヤツが応援にハマるといつのまにか彼女は来なくなった。ユウタロウよると彼女に構わなくなったので振られてしまったそうだ。コイツはマジメだが試合に負けるといい年して泣くクセがある。だが太鼓は上手いし、信頼できるやつだ。応援のときの呼吸も合う。

 

 ケイタも翌年組。何となく応援に加わり今でもいるって感じだが、欧州のサッカーに詳しい。知識が豊富なので応援スタイルの意見はいいアイデアをくれる。

 

  

 アマチュアなので当然だが俺達にはレプリカユニが無かった。メンバーのモチベーションをあげるためにも必要だと感じた俺は、チームの練習を観に行き、キャプテンのセキネに古いゲームシャツでいいから分けてほしいとお願いした。欲しい一心で思わず土下座までした。セキネはいろいろ探し回って3人分集めてくれた。色はチームカラーの青が2枚、アウェー用の白1枚、デザインは年度がみんな異なっていてバラバラだった。ただ胸の会社名のロゴだけは同じだった。俺は白を貰った。

 

俺達はこれまできちんとしたグループ名がなかったのだが、セキネへの感謝の意味も込め、正式に決めることにした。グループ名は俺が強引に『クルセイド』と決めた。十字軍という意味だ。ユウタロウが「3人しかいないのに派手な名前は...」と言ったが、「そのうち人も増える。カッコワルイ名前では人も増えない。」と適当な理由を付けて押し切った。由来はイギリスのサクソンというバンドの曲から取った。

こうして俺達の『クルセイド』は船出した。

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