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2005年9月 3日 (土)

第1章 1997年 1.マルセーロの入団(1)

最初に..

 この作品をオダジマトモヒコくんに捧げます。

 

 

 JFLサポーターの正月は3月だ。たまに4月になることもあるが..。

 開幕を1ヶ月前に控えた土曜日、俺はチームの初練習を見に行った。始動したばかりの今はコンディション調整が中心だ。だが本当の用事は別にある。俺はマネージャのメグミを見つけて声を掛けた。

「よっ!元気。もう発表になったでしょ。教えてくんない。」

「元気って..。メール毎日送ってきて言うことじゃないでしょ。わかってるから、練習終わるまで待ってよ。」メグミはうんざりしたように答えた。

 メグミとは2年前から付き合い始めた。きっかけはやはり応援だ。試合の行く先々で顔を合わせるし、チームの予定や選手の調子の話を訊くうちに親しくなった。最初はあくまで友達レベルだったが、試合のときの雑務を手伝ったりするうちに先に俺が惚れてしまい、ダメ元で“付き合ってくれ”と告白し、それから付き合い始めた。選手はマネージャと付き合ってはいけないことになっていたこととも俺に味方してくれた。肩ほどに伸びた髪と大きな目をしていて、実は身長は俺より少し高い。普段会社では受付業務をしている。付き合い始めたことがチームにばれた時は一部の選手にイヤミも言われた。

 今日、俺がここへ来た目的は1年の計を決める重要なこと、すなわちリーグ戦のスケジュールを教えてもらうためだ。これがわからないとサポーターってのは他に何も決められない。まず試合の日をカレンダー上でマークすることから1年が始まるといっていい。

 

 しばらくして練習が終わり、メグミが後片付けを済ませて、やっと俺のところへ来た。

「去年も言ったけど、本当はまだ関係者以外に教えちゃ行けないんだから誰にも言わないでね。サトウさんが大目に見てくれてるんだから、公式発表の1週間後までお願いね。」サトウさんとはサッカー部の部長さんのことだ。

「わかってますって、メグミ様。今度いろいろサービスしちゃうから。」

「じゃコレ。わかりやすいようにチェックしておいたから。」と1枚の紙をくれた。開くとJFLの今年のリーグ戦の日程と対戦カード、場所、時間が書かれていた。

「おお、開幕はアゲハ電機か..。あれ、7節のここってどこ?」俺はいろいろ質問をする。JFLはアマチュアチーム主体なので、試合会場もいろいろな事情でいろいろな場所でやることになる。アウェイなのにこっちの方が近い場所で試合することもある。

「うん?何?この欄外の予約日ってのは?」俺は余白に書かれた予約日といういくつかの日にちをを指して訊いた。連続しているものもあれば、そうでないものもある。

「それはアタシがタクマ君のスケジュールに予約を入れておく日よ。今のうちに抑えておくの。ホラ、試合と被ってないでしょ。ここは旅行連れてってね。」と日にちを指差す。

「(呆然)はぁ.....。」

「早く決めとかないと仲間付き合いとかで予定埋められちゃって、どこにも行けなくなっちゃうから。」と毅然と答えるメグミ。しっかりしている。2年も付き合っているからサポーターの習性を理解できてきたらしい。

「わかった、空けとくよ。旅行の行き先は自由に決めていいから。」

 メグミと別れ、練習場を出ようとしたときにサトウ部長と偶然出会った。軽く会釈して話しかける俺。

「どうっすか。今年のチームは?」

「うん。ここまでケガ人もいないし、調子もよさそうだし、今シーズンは期待してください。」と明るい声でハキハキとサトウ部長は答える。この人はいつもこういう口調で人と接している。ものすごく温厚な人で俺も好きだ。だがスポーツにはあまり興味がないらしい。以前、新聞のスポーツ欄を見ているか訊いたとき、「見ていない。」とはっきりと答えられてしまい唖然としたことがある。困ったもんだ。

「今日練習見ましたけど、セキネ調子良さそうですね。声も出てるし。」と俺も適当に合わせる。

「うん、調子いいでしょう。今年も応援よろしくお願いしますね。」サトウ部長はにっこり微笑んで歩いていこうとした。が急に思い出したように振り向き、

「そうそう、まだ内緒なんだけど、菅野君には教えてあげる。実はね、ブラジルから選手が来ることになったの。」と喋り始めた。

「ブラジル?」

「うん、うちが出資している向こうの会社がスポンサーやってるクラブの選手でね、ウチのサッカー部にプロ契約で移籍してくることになったの。」とサトウ部長は続けた。

「名前はね、マルセーロっていうの。」

俺はポカンとしながら聞いていた。外国人のプロ選手が来るということも企業のサッカー部にはピンとこない話だったが、それよりも補強の話をこうも簡単に部外者に話すサトウ部長にも唖然としていた。リーグ戦のスケジュール表どころの話ではない。田舎らしいというのか、アマチュアらしいというか。

マルセーロとかいう選手は2週間後に来日だそうだ。開幕にはぎりぎり間に合うかもしれない。おかげでいいモチベーション付けになった。

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