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2005年9月27日 (火)

第1章 1997年 2.開幕戦(2)

 13時キックオフ、今シーズンが始まった。

 ユウタロウが太鼓のリズムを打ち始める。イングランドのサンダーランドというクラブのチームソングを流用したテンポの早い威勢のいい曲で最初は入る。当たり前のことだが90分の試合の中で緩急がある。ずっと跳ねるような曲ばかりはできない。

 セキネから早い曲ばかりだと選手もそのリズムに乗ってしまい、スタミナ配分を狂わすこともあると言われたので、早い曲は試合開始5~10分までとか、試合の流れが一度切れてリスタートするときとか、流れがこっちにあって選手も積極的に勝負しているときとかと決めている。それ以外は試合の速度に合わせて曲を選んでいる。

 相手のペースのときはゆっくりとした曲にして相手の攻撃をそのリズムに乗せようと意図することもある。あえて曲を止めて“待つ”こともある。これはもう経験と勘でしかない。全部俺が決めている。ユウタロウには手振りで指示を出している。手を回したり、こぶしを開いたり閉じたりといった動作で殆ど伝わる。

 試合は比較的ミクニ優勢ながら、ゆったりとしたペースで進んでいた。

 20分過ぎ、敵陣でFKを得る。キッカーはアソウ。ゴール前に上げたボールにクゲが頭で合わせる。シュートはGKの正面に飛び、弾かれてゴール前にこぼれた。そのボールをハヤシバラがスライディングで押し込む。

先制!1-0!歓声が沸き上がる。

 その後もミクニ優勢で試合は進んだ。チャンスは再三あったが、力んでしまうのかシュートが枠へ飛ばない。結局1-0で前半を終了した。

 

 ハーフタイム。俺はユウタロウと太鼓のペースについて確認する。

「最後の方、テンポが早くなってたぞ。あがり過ぎないように気をつけてくれ。」

「わかりました。気をつけます。後半開始はどうしますか。」

「試合のテンポを見よう。追加点が取れなかったから嫌な展開になってる。歌のテンポ早くすると前掛かりに拍車をかけちゃうかもしれないし。」

「最後の方、少し選手疲れてましたからテンポ変えた方がいいかもしれないですね。」

フィールドでは、サブメンバーがアップをしていた。マルセーロが俺に気づいて手を振る。俺も挨拶を返す。せっかくだからとユウタロウにマルセーロコールをやってもらう。

外国人は些細なことでモチベーションが上がりも下がりもするので、こういったコミュニケーションは大事なのだ。

 

 選手達がでてきて、ほどなく後半が始まった。

 相手は戦い方を変えてきた。前半は後ろに引いて守備を固めていたが、後半開始から中盤での積極的なプレッシングを仕掛けてきた。ボールを奪うと素早く攻撃に転じる。後方からのボールを持った選手を追い抜いていく動きが増え、ミクニは対処に振り回されてしまう。ペナルティエリアへは侵入させないものの、フリーでミドルシュートを何本も打たれる。

 1本は左隅の枠内に飛び、カワシマが片手で弾いて危機を救った。

「声掛け合えー!落ち着いて一度守備確認しろー!」俺は選手達に向かってまるで監督にでもなったようなことを叫んでいた。それでも俺自身は焦っているわけではなく、ただ流れが向こうにはあるが、まだこっちがリードしているという感覚で試合を見ていた。

 後半15分過ぎ、やっと相手のペースが落ちてきて、ミクニの選手たちも落ち着きを取り戻す。

 ファビーニョはここで新人のカタヤナギを投入する。右も左もこなせて、スピードもあるアタッカーとのことだった。

 そのカタヤナギがいきなり魅せる。左サイドに入り、最初のプレーで対面の相手を抜き去り、鋭いクロスを入れる。セキネが頭で合わせるがクロスバーの上。

 続けざまに今度はドリブルでDF2人を交わしシュートを放つ。わずかにゴールを逸れた。

 

 流れは完全にミクニに戻った。35分、ついにマルセーロがセキネと交代で入る。マルセーロは最初のプレイでDFに1対1の勝負を挑み強引に抜きにかかった。が1度目は相手に上手く体を入れられボールを奪われてしう。

 再度勝負。今度は体を使って相手をブロックしながら抜く途中で強引にシュート。弾道は大きく枠をそれる。気負い過ぎなのか強引さが目立つ。結局、有効なプレーはなかった。試合はこのまま1-0で終了。開幕戦を白星で飾った。

 試合後、選手達を駐車場にて待つ。JFLのいいところは試合後、選手達に直接話しができることだ。こういう時にいい関係を築けると本音を言ってくれるようになる。それは俺達にとって応援することの大きなモチベーションになる。女の子達とは違った意味で俺達にとっても試合後は勝負の時間なのだ。

 セキネの奥さんがいたので軽く挨拶を交わす。しばらくしてセキネがやってきた。

「良くなかったね。フィニッシュの精度悪かったし、個人プレーが多くてチームとして機能してなかった。」と不満そうな顔でセキネは言った。

俺達も同じ感想。

「これから良くしていこう。まだ開幕だから」と俺。

「うん。それに怖いのはケガだからね。」といってセキネは奥さんと帰っていく。

セキネは試合後いつも本音を言ってくれる。セキネは俺達とって誇りだ。

女の子達は目当ての選手達に話しかけたり写真を撮ったりに夢中になっている。俺は強引に割って入り、カタヤナギやアソウに試合について話を訊く。アソウもセキネと同じことを言っていた。”序盤戦、苦しいかも”と。俺は軽い不安を感じた。とはいえ開幕戦勝利は大事なことだ。内容はともかく3人で祝う価値のある勝利だろう。

 俺はユウタロウとケイタに“今日は奢る。”と告げた。ユウタロウがマメのつぶれた右手に絆創膏を張りながら笑った。

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