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2005年9月 8日 (木)

第1章 1997年 1.マルセーロの入団(2)

 突然目覚まし時計が鳴った。

 俺の隣で寝ていたメグミが跳ね起きて、足元に転がっていた下着を掴んでバスルームの方へ歩いていった。

「いけない。支度しなきゃ。」

「なんだよ。何かあるのかよ」寝起きの俺は不機嫌そうに言った。

「今日、マルセーロが来るのよ。知ってるでしょ。」と言い放ちバスルームの扉を閉めた。

 そういやそうだった。今日は記念すべき日だ。昨日の夜はメグミの家に泊まった。スケジュール表のお礼のためだ。だから今朝は眠い。試合の日はいつも早く起きられるのだが、今日はダメだ。

 シャワーを浴びたメグミが出てきて忙しく身支度を始める。俺はベッドの中から下着を探しだす。そしてバスルームへ向かう。シャワーを浴びて出てきたとき、メグミはもう出かけようとしていた。

「おい、一緒に行こうよ。乗せてってよ。」

「冗談でしょ。同伴出勤なんかみんなに見られたら、会社中でウワサになっちゃうわ。」と突き放し「鍵、ちゃんと掛けてってね。」メグミは冷たく言い放ち出かけていった。

 

 我がミクニサッカー部の練習場は市の郊外、本社と工場を兼ねた海に近い敷地の一角にある。門のところで身分証明書を見せ、入場許可申請の書類を提出すれば中に入れる。昨年のリーグ戦は5位で終了。得点ランク6位にセキネが入った。それ以外は特筆するべき記録はなかった。

 既に練習は始まっていた。マルセーロらしき男はまだいない。俺はセキネに軽くアイサツを交わした。

「いよいよだね。期待してるから。」

「頑張るよ。ケガしないようにせんとね」とセキネ。俺は選手と余計な会話はしない。苦手だし不要だ。セキネも大事なとこは見てくれている。

 俺は他にGKのカワシマ、DFのクゲとかと挨拶を交わす。このチームにはプロ契約選手もいる。カワシマやMFアソウ、DFサカザキなど7人がそうだ。

 監督のファビーニョが来たので話しかける。去年から監督をやっているブラジル人だ。ここに来る前は日本の某高校でコーチをしていたので日本語の会話に問題はない。だから、チームのこと、サッカーのことをいろいろ教えてもらおうと、俺は自分から積極的に話しかけるようにしてきた。今日はマルセーロのことを聞くべきだろう。

「ファビーニョ、マルセーロの使い方とかもう考えたの。」いつも会話はタメグチだ。

「いや、まだプレイを見ていないんだ。ビデオもないし。見てから考えるよ。」とファビーニョ。どうやらファビーニョの知らないところで獲得が決まったようだ。

「ファイトする気持ちがあって欲しいネ。それ大事。」

「そうだね。そういう選手であるといいね。今年もよろしく。」俺はファビーニョと握手を交わした。ファビーニョはグラウンドへ向かった。

 

 練習が始まって30分ほどで、ウワサのマルセーロらしき男がサトウ部長や通訳らしき男性とともに現れた。 長い後ろ髪、色黒い顔、インディオの血が入っているようだ。アルメイダを少し怖くしたような精悍な顔、背丈は180センチくらい。俺の好きなサモラーノに似てなくもない。今日はジャケット姿だ。練習には参加しないらしい。

 サトウ部長は練習を中断させて、選手・スタッフを呼んだ。そしてマルセーロの紹介を始めた。続いてキャプテンのセキネに始まり、選手一人一人を紹介していく、練習中にここまでやるところがサトウ部長らしい生真面目さとズレたところだ。

 メグミが紹介されたとき、マルセーロの表情が変わった。ニヤッと笑い、視線を上下に動かしてメグミをチェックしたのを俺は見逃さなかった。プチッとスイッチが入る俺。メグミもマルセーロの視線に気づき強張った笑顔になる。サトウ部長はファビーニョと軽く会話を交わす。そして練習が再開された。

 ふとサトウ部長が俺に気づき、マルセーロをこっちへ引っ張ってきた。

「やあ、タクマくん。これがマルセーロ。いい選手でしょう。マルセーロ、彼がサポーターのリーダーの菅野タクマくん。いつも応援してくれるんだよ。」ご機嫌のサトウ部長。マルセーロは通訳から俺のことを聞いてうなずく。握手を交わすが俺の目が笑っていないのに気づいたらしく怪訝そうな顔をした。

「よろしく。期待してるから。」と日本語の俺。向こうでメグミが心配そうに見ている。 

俺は「(メグミの方を指差し)アレ、(自分を指し)俺の(小指を立てる)オンナだから。手出したらコレ(首をカットするポーズ)だから。オーケー?」と忠告した。

 固まるサトウ部長と通訳。メグミが引きつった顔になっている。ファビーニョも選手達もこっちを見ている。

 マルセーロはキョトンとしていたが、一度メグミの方を見て俺の方に振り返り、

「オーッ、オーケー、オーケー。ダイジョブウ、ダイジョブウ。」

と手を上げて明るい笑顔で答えた。吊られてサトウ部長も引きつった顔で笑う。選手達はニヤニヤ笑っている。メグミは顔が真っ赤だ。

「まあ、これからもヨロシクね。」そう言って、サトウ部長はマルセーロを連れていく。マルセーロは俺の方を見て笑顔で手を振って去っていった。

 後で聞いた話だが、マルセーロは小さなクラブの有望な若手なのだが、クラブは選手への給与未払いが続いていて、このままだとマルセーロのパスも失いかけない状況だったらしい。そこでミクニが一時的に給料の肩代わりをする代わりに日本につれてきたらしい。会社も何か思索があってのことのようだ。

 

メグミがこっちを睨んでいる。気まずい俺は早々に帰ることにした。

 

週明け、会社中にこの日のことが伝わった。ロビーで受付業務をしているメグミは警備員のおじさんにまで冷やかされたと怒っていた。

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コメント

おそまきながら、読ませて頂いています。
意外な才能にビックリです。
気になる事は今のところないですが、
誰を登場人物に重ねるのかが、
難しくもあり、楽しみでもありですね。

投稿: 総統 | 2005年9月18日 (日) 22時49分

お待ちしておりました、総統。
まだこの小説は始めてばかりで、これからもう一人の主人公が出てきます。
頑張りますのでご期待ください。

投稿: AWAN渦帝 | 2005年9月19日 (月) 07時47分

渦帝さま

>これからもう一人の主人公が出てきます。

楽しみにしています。

ホンダロックが天皇杯3回戦に進みました。
10月9日(13:00)グリスタです。
遊びに来て下さい。

投稿: 総統 | 2005年9月20日 (火) 09時50分

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