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2005年10月12日 (水)

第1章 1997年 3.ヨシヤ(2)

皆の気分が重くノリが悪いまま試合は進んでいた。

後半5分程、中盤のマークが一瞬ずれて、相手の10番がフリーでボールを持った。ストッパーのクゲがあわててチェックにいった時にスペースができた。10番はすかさずそのスペースに走ったFWの足元にパスを通す。敵はGKカワシマの動きを冷静に見ながらシュートを放った。

0-1。

「雰囲気悪くされたからこんなことに..。」とユウタロウはつぶやく。

「仕方ない、切り替えよう。集中切らすな。」と太鼓を促す。

だが一度悪くなった流れは止めようがなかった。17分、22分と失点して0-3となった。

何人かのお客は帰り始めた。俺達のテンションも上がらず応援はしぼみかけていた。

30分、ファビーニョはセキネに代えてマルセーロを入れた。

マルセーロは最初のプレーでクサビとなりボールをはたくと、素早くゴール方向へ走る。その動きに合わせるようにロビングのパスがマルセーロの走る先に通る。そのままドリブルでペナルティエリア付近まで進むと素早い切り返しで相手DFのかわした。

“早い!”と俺が感じた一瞬、既にマルセーロは右足を振り抜いていた。

シュートは見事な弾道とスピードでファーサイドのネットに突き刺さった。

1-3。

“ウオーッ”というこのスタジアムでは久しく聞いたことがないような歓声があがる。

マルセーロはチームメート達にモミクチャにされている。来日初ゴールは衝撃的な一発となった。

俺達はお互いに顔を見合う。皆驚きを隠せなかった。

「よし、イケる、イケる。」と俺。ユウタロウが間髪入れずに太鼓を再開する。

“サンダーランド”が威勢よく始まり、俺達は勢いを取り戻した。

試合はその後もミクニペースで進む。MJSのディフェンス陣はマルセーロに翻弄されまくっていた。それにしても今日のマルセーロはキレキレだ。今までは何だったんだ。

そして他の選手達も引っ張られるようにしてプレーのキレが増している。

後半40分。左サイドでスピードに競り勝ったカタヤナギが速いクロスをファーサイドにあげた。ラインを割ると思われた瞬間、マルセーロがヘッドスライディングのような姿勢で飛び込んでヘディングシュートを放った。2-3。

再びあがる歓声。ガッツポーズのマルセーロ。相手サポーターは静まり返っている。

「スゲえ..。」とケイタがつぶやく。ユウタロウはまだ試合が終わっていないのに泣きそうになっている。女の子達も“仙人様”も興奮を隠せず、なんと手を取り合って喜んでいた。

試合は結局そのまま2-3で終了。だが、まるで試合に勝ったような熱い拍手がメインスタンドから選手達に贈られた。特にマルセーロに贈られる拍手やコールは凄かった。

試合後、後片付けを済ませた俺達のところへあの男がやってきた。

「さっきは済まなかった。悪気は無かったんだけど、雰囲気悪くして申し訳ない。」

「いやいいよ。言いたいことはわかるから。」と俺。結果は負けだが内容に満足していたので機嫌が良くなっていた。

「今日の試合見てたら、少し考え変わったよ。何か盛り上げる案を考えてもいいかなって思ったよ。」

「俺も今日の試合で何か変えられるかもって思いました。」とユウタロウ。

男はニコリと笑い

「そりゃ良かった。やっぱ何か考えて努力した方がいいよ。」と急に少し横柄になった。

「やっぱり説教かよ。」と俺がムッとした顔で言うと、あわててごまかした。

「あ、いや、そうじゃなくて。でも今日のメインスタンド盛り上がってたぞ。見たろ。」

「うん、久しぶりに見た。あんなに盛り上がるの。」と俺はもう誰もいないメインスタンドの方を見た。

「また来るよ。」といって男は帰ろうとした。

「アンタ、名前は?」と俺。

「藤井ヨシヤ。オタクは?」

「菅野タクマ。今度いつ来る?」とヨシヤに訊いた。

「う~ん。来月末。フジマ戦かな?」フジマとはフジマ自動車、昨年の王者だ。

「わかった。待ってるよ。」

「じゃまた。」とヨシヤは帰っていった。なぜか後ろ姿に引かれる気がした。

試合後の駐車場ではマルセーロが女の子達に囲まれていた。

「マルセーロ!」と俺が声を掛けると、マルセーロは手を上げてニコッと笑った。がすぐに女の子の方へ向き直り、ずうずうしく肩に手を回した。
「すっかり馴染んじゃって..。」と帰り支度を済ませて出てきたメグミが呆れていた。

「いいじゃん、今日くらい。南米選手らしいって。」と俺。

「そうかもね。そういえば、今日のスタンド凄かった。あんなの初めて。」と思い出したように興奮気味にメグミが試合を振り返った。

「うん、今日の試合は忘れられないと思う。」

「少しはお客さんも増えるかな。」

「うん?それはわかんないけど。」

そう答えた俺だったが、観客が増えて地元が盛り上がったらという想像をしていた。ここ数年そんなこと想像したこともなかったなと気づいた。そういうことを考え始めたことは俺にとって大きな変化だった。

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