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2005年10月 4日 (火)

第1章 1997年 3.ヨシヤ(1)

 開幕から2ヶ月。開幕戦をどうにか勝利した我がミクニサッカー部だったが、以降はなかなか波に乗れない状態が続いていた。3節DDL通信に0-1で敗れると、5節北越FCにも1-2で敗れた。特にこの北越FCは戦力的にもチーム環境的にもミクニの方がはるかに上のはずで、ここに負けたことは結果以上に精神的に響くことになった。6節米子ビルド戦は勝利したものの延長勝ち。7節みちのくホイールズには0-2で完敗だった。ここまで4勝3敗。順位は12チーム中6位に付けていた。

 今節対戦のMJSミラクルズはJリーグ昇格を目指している山口のチームだ。選手も全員プロ、強敵だ。だがホームでもあるし、勝利できればメディアの扱いも変わってくるからどうしても勝ちたい大事な1戦だ。相手はJを目指しているので、サポーターもこんな遠いところにもかかわらず百人くらい来ていた。

 

 その男はいつのまにかいた。

 団幕や旗の準備も終わり一息ついている時、俺達は気づいた。ゴール裏に知らない人物がやってくることは珍しいのですぐわかる。その男はゴール裏の芝生席上段の方に座って試合開始を待っていた。キャップ帽、無精髭、少しルーズなパンツ。年は30歳くらいか。年齢のわりに若い格好をしているので、俺はどこかJチームのサポだなと確信した。こういう男が鴨川までJFLを見に来る場合、余程サッカーが好きか、自分を下部リーグの田舎サポに売り込みしてルート造りしたいかのどっちかだろうと思った。

「声かけてみます?」とユウタロウが指にテーピングしながら聞いてきた。

「いや、いいよ。冷やかしかもしれないし。向こうから声掛けてきそうな気もするし。」と答えた。実際そんな気がしていた。

「もうすぐキックオフだ。そっちに集中しよう。お前も気にすんな。」

「わかりました。大丈夫です。」とユウタロウは答え、太鼓のストラップを肩に通した。

 この日のゴール裏は俺達3人の他、女の子サポ3人組。いつも一人で試合に来ている男性の7人。

 この男性はいつも来てくれる。何度か話しかけてみたが、極度の人見知りなのか頷くだけで会話にならかった。応援の時も手は叩くが声を出すことはない。だが試合が終わると後片付けを率先して手伝ってくれるありがたい人だ。終わるといつのまにか帰ってしまい、痩せていて気弱そうだが印象は悪くないので、皆で“鴨川仙人様”と密かに呼んでいる。

JFLにはこういうお客さんがどこチームにも一人はいるらしい。

 

 試合はプロ選手ばかりのMJSに試合を支配される。攻撃時の展開スピードがウチと違う。運動量も多くプレスも早くて厳しい。どうしても守勢になってしまう。

「予想してましたけど、これじゃ攻め口ないですね。」とケイタ。

「90分ずっと続くことはないから今は辛抱しよう。前半は0-0でもいい。」と俺は答える。

「ユウタロウ、カウンターの時はお前の判断で太鼓のテンポ上げていいから。でも止められたらすぐ元へ戻せ。」太鼓を叩きながら頷くユウタロウ。既に額にかなり汗をかいている。

試合は前半終盤になってミクニが盛り返したが、そのまま0-0で終了した。

 

ハーフタイムにその男はやってきた。予感的中だ。

「君たちさ、いつもこんな感じでやってんの。」とその男は訊いてきた。

「まあそうだけど。何か?」と俺はわざとぶっきらぼうに答えた。

「いや、何ていうか。もっと盛り上げられないのかなって。」

「どういう意味?」

「ホームなんだからメインのお客巻き込むとか、誰かスカウトしてゴール裏の人増やすとかしないの?」

「昔はしたよ。でもジャマだとか言われたんでやめた。アンタ、メイン行ってみた?親父ばっかりだよ。学生くらいの若いやつなんかいないし、今はやる意味ないよ。」

「でも一生懸命応援してるのに寂しくない?もっと周り巻き込んでいければ盛り上げられるのに。」

「だから、そういうことしたくないんだよ、メインの人達は。少なくとも今メインにいる人達はね。」俺は続ける。

「あんたの言ってることはわかるよ。俺達だってもっと盛り上げたい。でも現状はこうだ。我慢するしかない。」

「でも仲間増やさないと見た目がショボイままで、なお盛り上がらな..」

「アンタさあ、どっかのJの人間だろ。どこの人だか知らないけど、ここにはここの土地柄や事情があるんだよ。簡単じゃねえんだよ。あんた、こんなとこまでわざわざ俺達に説教かますために来たのか?」俺は男の話しを遮って怒鳴り返した。

「いや、そんなつもりは...。」と男。

「今、試合中なんだよ。アンタが何だかんだいうから、みんなの士気が下がっちゃってるだろ。盛り上げに水差してると思わねえか。」

男は黙っている。

「言いたいことあるなら試合後にしてくれ。」と俺は突き放した。

「わかった。ゴメン。」と言って男はまた元の位置へ戻ってしゃがんだ。

 

「偉そうなヤツ。」とユウタロウ。ケイタや女の子達もムッとしている。

「気持ち切り替えよう。俺も怒鳴って悪かった。試合始まるから切り替えよう。」

重い気分のままであったが、どうにか試合に気持ちを向け直さなきゃいけない。俺は自分に言い聞かせながら皆に言った。

後半はもうすぐ始まろうとしていた。

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