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2005年10月23日 (日)

第1章 1997年 4.決意(1)

 来週はもう8月だ。暑い。でも昼の1時にリーグ戦がある。JFL以下のリーグでは珍しくないが、選手も観客もきついことは事実だ。

 ここまでミクニは6勝4敗で5位。今日は前半最後の試合でこの後、リーグ戦は9月まで中断する。今回は重要な試合だ。いや、試合は結局どれも重要なのだ。

 今日は昨年の王者、フジマ自動車との試合だ。全員社員選手なのに選手個々のレベルも組織力も高い。プロ選手主体のチームを押しのけて昨季優勝を飾った強敵だ。はっきりいってワンランク上のチームといっていい。

 

 ユウタロウに電話を入れると珍しく起きていた。

「めずらしいな。よく起きられたな。」

「いや、あまりの寝苦しさに目が覚めちゃったんです。ひどい夜でしたよ。」と嘆いていた。

確かに昨晩は酷い熱帯夜だった。今朝も7時の段階で既に28度、湿度も高そうだ。これは試合も別の意味できつくなりそうだなと感じた。

「ユウタロウ。水分がかなり要りそうだから、お前の店で多めに飲み物仕入れてクーラーボックスに入れてきてくれないか。現場の準備はしておくから。」

 ユウタロウはスーパーに勤めている。当然氷類も沢山手に入るので、クーラーに冷たい飲み物を準備するのにうってつけなのだ。

「わかりました。じゃ店に寄ってから行きます。スポーツ系でいいですか。」

「人の好みもあるから、ミネラルウォーターも頼む。後は任せる。」

俺はユウタロウとの電話を切った。既にかなり汗をかいている。暑さ対策をしっかりしないと熱中症や熱射病になるぞと思った。

 南総総合球技場は想像していた以上に酷い状況だった。アップをする選手の姿が揺らいで見える。間違いなく35度以上はありそうだった。両チームの選手とも憂鬱そうな顔をしながらアップをしている。

「よお、酷い暑さだな。こりゃ。」

振り向くとヨシヤがいた。ヤツも既に汗をかいている。

「約束どおり来たぞ。それにしてもこんな環境でサッカーやるなんて自殺行為だよ。」

ヨシヤは冗談交じりにいった。

「俺もこんな暑さ、経験がないよ。暑さ対策の準備してるから使えよ。」と俺は濡れたタオルを渡した。

「これを頭に被るんだ。乾いたらそのバケツでまた濡らして被る。結構効果あるんだよ。」

バケツと水はスタジアムのトイレから拝借している。

「これでもきつかったら水を被る。だから今日は“海パン”なんだ。」と説明した。

今朝ケイタやいつも来る女の子達に連絡を付けて、熱射病除けのため水を被ってもいいように下に水着を着てくるようにお願いしていた。仙人様の連絡先は知らなかったのでできなかった。

「わかった。じゃあ、今日は微力ながら手伝うよ。タオル借りたし。」とヨシヤ。

「別にムリしなくていいぞ。大して愛着にないチームのために汗かくことないって。」

と俺は皮肉気味に断って見せた。

「いや、君らがこの状況でやるってのに俺が楽して見るのはチョッとシャクに障る。ヤラセろ。」

「わかったよ。じゃ旗もお願いしていいか。」と3メートル尺の旗を指差した。やる気を計ってみようというチョッとした意地悪も含んでいた。

「いいよ。任せとけ。」

ヨシヤは早速棒を手に取り、試しにと4~5回振ってみせた。やはり振り方に慣れが感じられる。でも見栄えよく旗が振れている。そのまま任せることにした。

 

 ユウタロウとケイタが大きなクーラーボックスを汗だくになりながら運んできた。中を開けると1.5リットルのペットボトル6本と目一杯の氷水が敷きつけられていた。

俺は女の子達に向かって

暑かったら好きに飲んでいいよ。きつかったら日陰に行ってもいいから。」と告げてクーラーボックスの管理を任せた。

 

 こっちはできる限りの準備をした。後は試合が成り立つのかというのだけが心配だった。

今日はセキネが累積警告で出場停止なので前節もゴールを決めているマルセーロが先発に起用された。

 

 キックオフ。

 いつものようにサンダーランドで応援を始めた。試合は暑さ対策のためかゆったりとしたペースで始まった。が、それは暑さ対策としては今日に限っていえば意味をなさなかった。キックオフの笛も今日に限って言えばサッカーの試合開始の笛ではなかった。

 

 15分経った。

 誰かがロングボールを蹴る。ボールは転々と転がっていったが、誰もそのボールを追わない。敵も味方も審判も。俺達でさえ“追え!”とか叫ぶ気力は既になくなっていた。そのままボールはラインを割った。しかしスロワーの選手も歩きながらボールに近づいていく。すさまじい暑さでみんなモウロウとし始めていた。既に走る奴なんていなくなっていた。

 

 俺は地面から湧き上がる熱気がまるでグウォーっという音を立てているように感じられていた。実際そんな音はないのだがそれぐらい凄まじい熱気だった。

 既にサッカーの試合ではなく、我慢大会の様相となっていた。

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