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2005年12月10日 (土)

第1章 1997年 5.クルセイド横浜(2)

 試合当日、ヨシヤは4人の同乗者を乗せワゴン車で岩手県宮古市の運動公園に到着した。そこは宮古湾の最も奥に面した海のすぐそばの場所にあった。

 ヨシヤは駐車場に車を入れた。 “それにしてもJFLの会場って遠いンだなあ。”とヨシヤは実感した。

 ここに来るまでに2度コンビニで道を確認するはめになっていた。Jチームの応援で何度も遠地に行っているヨシヤでさえもここは遠く感じられた。競技場周辺はガランとしていて、Jリーグでは試合当日の競技場周辺にいる開場待ちの人はだれもいなかった。会場スタッフすらも見当たらなかった。

“本当にここでいいのだろうか?”とヨシヤは辺りを見渡した。

「ここで間違いないんじゃないですか。」と車に同乗していた一人の青年が話しかけた。

「オウ、間違いないとは思うンだけど...。とりあえずメイン行ってみようか、サクちゃん。」と話しかけてきたサクライという青年にヨシヤは答えた。

 

 ヨシヤはこの間のフジマ戦の後、一念発起してある行動を起こしていた。彼は自分が普段応援しているJチームのサポ仲間の何人かに電話を入れ、ミクニサッカー部の応援をしないかと持ちかけていたのだった。

 声を掛けたのはJFLにも興味があって、所属するサポーターグループのしがらみのない友人に限った。サポーターグループのしがらみがあると他のチームの応援に刈りだすために、グループのリーダー達にクレームをつけられる可能性が高かった。
 遠地にも行くので時間的にも金銭的にも負担をお願いすることになるので比較的金銭にも余裕がある人かも考慮した。

 この厳しい条件に合致したのは3人だけだったが、幸いにも3人とも快く引き受けてくれた。3人とも以前からヨシヤが一緒に何かやりたいと思っていた友人達だったので、この顔ぶれはヨシヤにとって理想的なメンツだった。こうして、サクライ、ムラタ、タケイ、そしてヨシヤの4人のグループが今日ミクニサッカー部の応援をすることになった。

 

 ヨシヤが連れてきたもう一人は彼女のクミコだった。Jチームの他にJFLのミクニサッカー部の応援まで始めることを聞かされたクミコはヨシヤのサッカー馬鹿ぶりに最初は呆れもしたが、その熱意が尋常でないことを感じ取り黙って好きにやらせることにした。クミコも他の3人とも旧知の仲だった。

 

  ヨシヤ達は競技場のメインスタンド裏の正面入口まで来た。だが誰もいない。メインスタンドへの入口もシャッターが閉じたままだった。ただ対戦カードと試合開始時間を書いたボードは置いてあったのでここで試合することだけは間違いないようだった。

 ヨシヤは「オイオイ、ずいぶんと遠方からの客に冷たいトコだな。」と冗談を言った。

 皆が苦笑いし、ムラタが「向こう行ってみましょう。」と正面入口の先を指さした。そのまま競技場沿いに進むと、マラソンゲートに辿り着いた。そこは競技場の中が覗け、グラウンドでは今日の対戦相手“みちのくホイールズ”の選手達がアップをしていた。

「スイマセーン、入り口どこですかあ?」とヨシヤは大声で問いかけた。

ストレッチをしていた選手の一人が「正面入口ですぅ。でも開場は12時なのでそれまでまってくださあぃ。と大声で答えた。

12時までには1時間以上ある。そのまま競技場を一周したがホイールズサポーターもまだ一人も来ていなかった。

「スイブンのんびりしてるんだなぁ、JFLってとこは。」とタケイが感心したように皮肉を言うと、

「こんなもんじゃないか。日本リーグ時代みただね。」とサクライ。

「荷物持って正面行きましょう。選手達ももうすぐ来ますよ。アイサツしましょうよ。」とタケイがヨシヤに提案した。

 ヨシヤ達は太鼓や、突貫で作成した横断幕を持って正面入口へ戻った。正面入口に着くと、ちょうどミクニサッカー部のバスが到着したところだった。

 ヨシヤ達は急いで横断幕を広げ、バスの乗車口のすぐ前に立って選手がでてくるのを待った。サクライは太鼓を担ぎ、マレットを握って準備する。しばらくして監督のファビーニョが降りてきた。

 サクライが太鼓を叩きはじめ、ヨシヤ達がコールを叫ぶ。

「ミクーニエフシー!(ドンドンドドドン)ミクーニエフシー!(ドンドンドドドン)」

 ファビーニョは少し驚いたような表情をした後、ニッコリ微笑んで競技場に入っていった。

 選手達は驚いたような表情や、恐縮したような表情をしつつ、コールの中を通り過ぎていく。

 最後にセキネがバスから降りてきた。ヨシヤはセキネに話しかける。

「セキネさん、オツカレサマです。俺達、横浜から来たんですけど、今日は菅野くん達が来れないので、俺達が代わりに応援やります。よろしくお願いします。」

 セキネは一瞬戸惑った表情を見せたが、そうですか。そういえばフジマの試合でゴール裏にいましたよね。」とヨシヤを指していった。試合にでていなかったのにセキネはヨシヤを覚えていた。

「ええ、よく知ってますね。あの試合出てなかったですよね。どこで見てたんですか。」

「メインスタンドから見てました。見慣れない人が応援に加わってるなあと思ってたので。」

ヨシヤは何となく嬉しくなった。そして予想していなかったセキネの発言にやる気を奮い立たされるのを感じた。サクライ達も同じことを感じていた。

「今日は俺達頑張るンで、ゴール決めてください。」とヨシヤはお願いし、

「頑張ります。」とだけセキネは答え、ニコッと笑い、荷物を背負って競技場に入っていった。

ふと見るとコーチと一緒に荷物を運ぼうとしているメグミがいた。

「よお、メグミちゃん。タクマに言った通り来たから。」

「あ、こんにちは。ありがとうございます。」とメグミが答えた。

「タクマ、なんか言ってた。」

「ウーン、特に言わなかったけど、なんか今日行かれないの凄い悔しがってた。以前にも行かれなかったことあったのに..。」

“やっぱりな”とヨシヤは思った。「試合終わったら、俺からタクマに連絡するから。」

「そうですか?でも何でこんな遠くまで来る気になったんです?」とメグミは訊いた。

「ウーン、そうだなあ。おんなじ匂いがしたからかな、君のカレシに。」とヨシヤは答えた。

「ハア?」メグミはピンとこない様子だった。

 

12時開場。ゴール裏へ回り横断幕を張っているときクミコがヨシヤに話しかけた。

「なんか嬉しくなっちゃうよね。あんな選手いるんだね」

「俺も初めて。なんかスゲエやる気沸いてきた。来て良かったなあと思う。」

「まだ試合始まってないじゃん。」とクミコは笑う。

「うん、そうなんだけど。あんなこと選手から言われたらやる気沸くじゃん。Jでは無いもん。」とクミコの方に向き直って答えた。

“ゼッテー勝ちたい。”とヨシヤは思った。それはサクライ達もクミコも同じ思いだった。

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