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2006年2月20日 (月)

第1章 1997年 6.本音(1)

長いシーズンも今日で終わりだ。世間が日本のワールドカップ初出場に沸いている陰であまり注目を浴びずJFLは97年のシーズンを終えようとしている。だが、俺達は最後まで自分達の戦場で真摯に戦い、1つでもいい成績を求め戦うだけだ。

ここまでの我らがミクニサッカー部の成績は13勝7敗1分で4位。今日勝てば他の試合結果によっては3位で終えることができる可能性が残っている。最終戦は北越FC戦。前回は負けているが、本来ならウチの方が力は上だ。断固として勝つしかない。

そして、この試合はクルセイド連合軍(鴨川と横浜)の初陣となる。俺自身は既にアウェーゲームで彼らと一緒にやっていたが、ユウタロウとケイタは初めてだった。

「少し、太鼓遅くない?」とサクライ。

ユウタロウとサクライは太鼓のリズムを合わせるため開場前の空き時間にリハーサルをしていた。

「そうかな。いつもこの速さなんだけど。」とユウタロウ。

実は太鼓のリズムが違うとは俺から聞かされていたのだが、直接遅いと指摘されてはプライドもあって素直に認められなかった。

「サクちゃん。本家の方が正式なリズムだから、ユウタロウくんに合わせて。」ヨシヤがやんわりとそれでいてきっぱりと指示をした。サクライは”ワカッタ“と軽く手を挙げて答えた。

 

殆どが会ったばかり。お互いに緊張しているのが見えた。特に俺が緊張していて“上手くやれるだろうか”ということが頭から離れず、試合に気持ちを向けられないでいた。

ヨシヤが近寄ってきてささやいた。

「俺たちの方で合わせるからさ。タクマくんは自分のことに集中していいヨ。」

「うん..。わかった。そっちは頼むワ。」俺は言った直後、自分でも驚くくらい素直にヨシヤに答えた。逆に言うと、それだけ俺は頭が回りきらなくて、だれかに任せたくなっていたということだった。

「試合が始まれば自然と合いますよ。さっきのユウタロウの太鼓もいつもより少し遅かったじゃないですか。始まれば細かいこと気にしなくなるから自然と合ってきますよ。」ユニホームシャツを着ようとしていたケイタが横から話しかけてきた。

「そう?遅かった?」と俺。

「少し。」とケイタ。

俺はよく見てるもんだなあと感心した。

これまでもよくあったが、ケイタの冷静な視野に感心させられる。俺は少し落ち着こうと自分に言い聞かせた。何とか試合に気持ちを切り替えられそうだ。

試合はミクニのペースで進む。前回とはモチベーションもコンディションも違うミクニが圧倒的に支配して攻める展開となった。前半5分にセキネのゴールで先制。さらに20分過ぎにMFヤナセのミドルで2-0。35分過ぎにマルセーロも決めて3-0と順調に加点していった。

さて、肝心の合同応援だが、サクライが一歩引いて合わせてくれたおかげで太鼓のテンポは問題なかった。ただユウタロウが少し神経質になっているのに気づいたので、俺はコールをリードしながら体の上下の動きでリズムも指示するように気を使った。幸いにも順調にリードが広がったことでユウタロウも気が楽になったらしく、気になることは前半終盤にはなくなっていった。

前半は3-0で終了。

ハーフタイム。ユウタロウはサクライと自分から太鼓について確認していた。俺はこれで試合に集中できると確信した。ある意味今日の目標は達成したといってよかった。

後半もミクニペース。パスの交換が面白いように通り、チャンスの山ができた。52分再びセキネ。62分、コーナーキックからDFイトウが決めて5-0。71分マルセーロがクロスにヘッドで合わせ6-0。ゴール裏はお祭り騒ぎの様相を呈した。試合はこの後攻め疲れもあって膠着し、結局6-0で終わった。

歓喜に沸く連合軍。俺にとってちょっとだけ残念だったのは、この勝利を自慢する相手サポーターは最終戦にも拘わらず、誰一人来ていないことだった。

試合後、ドリンクを回収しにきたメグミから3位のチームが勝ったという情報を貰った。結果、最終順位は4位で俺達の今シーズンは終わった。セキネがゴールランク3位となった。

試合後、鴨川組(+メグミ)、横浜組(+クミコ)でシーズン終了の打ち上げを行った。試合が大勝に終わったこともあり、にぎやかな打ち上げとなった。

ユウタロウはストレスから解消されたらしく、かなりのハイペースで何杯ものジョッキを空にしてたので、既に顔は真っ赤になっていた。

サクライは飲み会で本領を発揮し、メグミを相手に冗談を連発して笑いを取っていた。

「そういえば、Jリーグ目指してんの?ミクニは。」

サクライが唐突に訊いた。一瞬、鴨川組は固まったが、俺は一口ウーロン茶を飲んでから答えた。

「俺はそんなに意識していない。いつかはJリーグって考えないわけじゃないけど、そうじゃない道もあるかなと思う。今はそれを考える前にやることもあるし。」

ケイタも頷く。

「今はもっと観客が増えてくれたらなと思う。今のスタジアムも悪くないけど観に来て貰うには不便だし、もっと子供に観てもらいたいから移転もありかなと僕は思うんですよ。」

移転なんて言葉が唐突に出て俺は少し驚いた。

「もちろん、鴨川市内ですよ。」

とケイタは付け加える。

 すると、顔を真っ赤にして眠そうにしていたユウタロウが突然大声で言った。

「俺は行きたいよ。Jリーグにあがって鴨川をサッカーで盛り上げたい。地元の誇りを作りたい。」

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