第1章 1997年 6.本音(2)
突然大声でJ昇格の夢を語ったユウタロウに皆びっくりした。
ユウタロウは突然立ち上がり喋り続けた。
「俺はいつもミクニでJに行きたいって思いながら太鼓叩いてる。確かに簡単じゃないけど、俺は鴨川って街が好きだし、この街がもっともっと盛り上がったらいいなと思ってる。ヨーロッパとかには鴨川より小さい街あるけど、そういう街でもサッカーで盛り上がってるところがあるし、だから鴨川でだって出来ると思う。ミクニのサッカー観たことない人が街にまだ一杯いるけど、観てもらえればサッカーの楽しさがわかってもらえると思う。鴨川をサッカーの街に出来る思う。」
ユウタロウは一気にまくし立てた。呆然とする俺達。
「まあ、ユウタロウくんもさぁ、座ってさ。」とヨシヤがユウタロウをなだめて座らせた。
「うん、でもJを目標にするのは決して夢で終わる話じゃないよ。だってJFLのすぐ上はJなんだし。もう千葉には2チームあるけど、何チームあったって言い訳だしさ。」
ユウタロウは興奮していたが、促されて座った。目が涙目になっている。ほどなくして嗚咽を漏らして泣き始めた。
「俺はJリーグ行く..。Jリーグ...。」
皆がシーンとするなか、ユウタロウの嗚咽だけが聞こえていた。俺はメグミに目配せし、そしてヨシヤにそっと耳打ちした。メグミがユウタロウの傍へ移動し、なだめようとする。
「とりあえず、ここは閉めよう。ユウタロウ送ってから、俺のウチで続きやろう。」
ヨシヤは頷く。俺はケイタ方を向き
「横浜組、俺の家まで送ってくれる?鍵渡すから。」
「わかりました。」俺はケイタに家の鍵を渡した。
その後、ユウタロウはすぐに眠ってしまったので、メグミと二人でユウタロウを家まで送り、そして自分のマンションへ戻った。
家では既にヨシヤ達が盛り上がっていた。
「何いきなり人のウチで盛り上がってんだよ。あっ、どっから写真出してきたんだよ。」
床にはアルバムが転がっており、俺とメグミの写真が貼ってあるページが広げられていた。
「オマエ、馬鹿正直に彼女との写真アルバムに飾っておくなよ。観てくれって言わんばかりジャン。」とヨシヤ。
「ねえ、これも面白いよ」とムラタが別のアルバムを持って奥の部屋から戻ってきた。
「ユウタロウ、大丈夫だった?」とヨシヤが訊いた。
俺は台所で、帰る途中買ったカットフルーツを皿に盛っていた。
「ああ、たまに飲みすぎて寝ることあるんだよ。大丈夫、アイツは。」
俺はひと呼吸置いてから付け加えた。
「でも、アイツがあんなにJリーグ意識していたなんて初めて知ったよ。あれがアイツの本音なんだな。」
「熱く語ってたな。」
「正直、とまどったよ。あんなに泣くほどJリーグ行きたがってるなんて思わなかったからさ。」
「試合の時も俺達のこと、かなり意識してたしな。」
「随分硬くなってるなと思ったけど、ヨシヤたちがJのサポだって知ってるから負けたくなかったのかもしれないな。」
「でも俺がお前らの立場ならJに行きたいって言うと思うけどな。彼みたいに。そっちの方が普通かなって思うんだけど、オマエの本音はどうなのよ。」
「どうって?J行きたくないかって事?」ビールを一口飲みながら頷くヨシヤ。
俺はしばらく考えてから
「わかんねえ。やっぱりその前にもっと盛り上げたいと思うし。でもこの街でJ行くことの難しさが大人になると冷静に見えてきちゃうから、そのことから目を背けてるのかな。」と自分にいいきかせるように言い
「まあ、俺達に聞かれてもそればっかりは判らないな。」
俺はフルーツを盛った皿をタケイに渡して、また台所へ戻った。
「そういえばさ。」俺は次にスティックをグラスに盛り付けながら、
「オマエ、彼女と何年付き合ってんの。」とクミコの方を軽く指しながらヨシヤに訊いた。
「何年かな?う~ん、かなり前からの知り合いでね。付き合い始めて..、5年かな?」
クミコは、サクライがメグミをからかっている隣で笑っている。
「結構長いな。付き合い始めたきっかけって何?」
「あいつの車借りたんだけど、ぶつけちゃってね。金なくて修理代払えなかったんだけど、その時肩代わりしてくれたんだよね。」
「自分の車なのに?」
「うん。それから付き合い始めたのかな。」苦笑いするヨシヤ。
「で、金は返したのかよ。」
「まだ..。」
「大丈夫なのか?」俺はスティックを盛ったグラスを手に尋ねた。
「返せなかったら結婚する。」
「お、言ったね。いつまでに返さなきゃいけないんだよ。」
「決まってない。」とぼけるヨシヤ。
「なんだそりゃ。」
「それはそうと、オマエとあの子はどうなの」と唐突にメグミのことを訊いてきた。ヨシヤが反撃にでる。
「付き合って2年かな。」
「いや、そうじゃなくて、結婚は?」
「まだそこまで考えてないけど。」俺は戸惑いながら答えた
「考えておいたほうがいいかもよ。」とニヤッと笑いながら返すヨシヤ。
俺は、サクライにからかわれて顔を赤くしながら談笑しているメグミを見て、少しシリアスになった。
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