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2006年7月23日 (日)

第1章 1997年 7.天皇杯(2)

白地に“かませ犬にはならないぞ”と大きく書かれた横断幕を前に俺は皆の方へ向き直り言った。

「どうよ。やっぱ意地みせねえとな。」

反応は様々だった。

「よくわかんないなあ。」とはユウタロウ。プロレスにも詳しくなくピンとこないらしい。

「おっ、いいねえ。」とはサクライ。彼はプロレス好きなのですぐネタ元がわかった。

ヨシヤはじーっと横断幕を見ていたが「ああ、いいんじゃない。」と味気ない感想を言った。

「何だ、その感想は?他に言うことないのか。大体お前今日やる気ないだろ。いいんだぞ、あっち(横浜のサポ席を指して)行って。」と不機嫌な俺が毒づく。

「いや、いいと思うよ。マジで。ていうか俺は早く今日が終わって欲しいよ。」とヨシヤ。

「おお、早く試合がしてえよ。マジで勝っちゃる。横浜なんか目じゃネエよ。」と俺。

ヨシヤは苦笑い。俺はカチンと来て

「お前、どっちかって言ったらミクニが負けたほうがマシと思ってんだろ。見とけよ。今日は幸せな気分にしてやるから。」と言ってやった。

ヨシヤの中途半端な態度は俺をますます本気にさせた。しかし、俺だけ本気になってもしょうがないわけで、結局俺の秘密兵器は期待していた効果をあげてくれなかった。

060717_103701_0001_1 俺は誰かマスコミが取材にくるかなとも淡く期待していたがマスコミどころか、 一般客の関心も引かなかったし、皆もこれ以上この横断幕について最後まで突っ込んでくれなかった。

マリノスの選手がアップに出てくる。すぐ後にミクニの選手達も出てきた。スタメンも発表になる。相手には日本代表の選手が大勢いる。GKカワグチ、DFイハラ、オムラ、MFナカムラ、FWジョウそしてスペイン代表でも活躍したサリナス。すげえメンバーだ。ユウタロウなどは名前がコールされるたびにオーッと声をあげて感心している。そんな場合じゃないのだが。

試合は13時ちょうどにキックオフ。試合開始から個で勝るマリノスが自在に攻めてきた。安易な縦パスは簡単に読まれてカットされ、すぐさまカウンターの脅威に晒されることになった。

7分、ナカムラのスルーパスに反応したジョウがDFラインの裏を取る。クゲが慌てて後ろからチャージ。ペナルティエリアの中だった。

PKをナカムラが落ち着いて決める。0-1。先制された。

15分、サイドの裏を突かれクロスがあがる。そしてサリナスのヘッド。カワシマがパンチングでセーブ。

24分、ゴール正面20mほどでファウルを与える。ナカムラのフリーキック。綺麗な弧を描いたボールはクロスバーに当たって外れた。カワシマは動けず。

060717_103701_0002_1 と、ここまで攻められっぱなしのミクニ。攻撃陣はというと効果的なパスが前線 に通らず、やっとにマルセーロに渡っても、激しいチェックに遭いマルセーロは何度も転倒させられ、またファウルを痛めつけられてもファウルを取ってもらえず、マルセーロはフラストレーションを貯めるばかりとなり、それが強引なプレーを呼び、また倒されるの繰り返しとなっていた。セキネも同様で、前半はいいとこなしの状態だった。

それでも1失点にしのいでいたが、前半終了直前、CKからオムラに決められ2点目を決められてしまった。直後に前半終了。

「思っていた以上にきついな。」俺はヨシヤにぼやいた。

「俺も正直ここまで通用しないとは思わなかったよ。やっぱ違うんだな。」

「マルセーロなんかオムラにつぶされまくってた。イライラして無理に仕掛けるからなおやられてましたね。」とケイタ。

ミクニゴール裏の雰囲気は最悪だった。俺は横断幕を見ながら“やっぱりかませ犬になっちゃうのかな。”と思った。が、すぐに気を取り直すことにした。

「このまま終わらせないように応援しヨ。絶対やれるって。頑張ってコ。」と俺はケイタやユウタロウに向かって話しかける。無言で頷く二人。でも、この言葉は何より俺が俺自身に向かって話しかけている言葉だった。妙な横断幕を作ったせいで負けることへの恐怖心が自分を萎縮させているのに俺は気づいていた。

後半が始まった。俺はしばらくして気づいたがミクニはフォーメーションを変えてきた。

060717_115101_1 トップ下の位置にカタヤナギを左サイドから移してきた。アソウが少し下がり目 の位置に入り、サイドハーフは右のアオバだけになった。トップ下のカタヤナギがドリブルで中央をかき回し始めると試合は、2点リードしているマリノスが慎重に入ったこともあり互角の展開に落ち着いてきた。しかし肝心な敵ゴール前ではマルセーロがオムラの潰しに遭って何もできずにいた。

だが目に見えにくいところで変化が出始めていた。そしてそれがチャンスを呼んだ。

60分、ドリブルで進入してきたカタヤナギからのパスがマルセーロに出る。マルセーロはマーカーのオムラの位置をチラッと見て、ワンタッチでボールの向きを変え抜きにかかる。逆を取られたオムラが思わずファウル。ゴール前でフリーキックを得た。

キッカーはカタヤナギ。蹴られたボールは綺麗な弧を描いてゴール枠内に向かった。カワグチが横っ飛びで弾く。が、ゴール前にこぼれたボールにセキネが詰めた。

1-2。1点差に詰め寄る待望のゴール。反撃が始まった。

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