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2009年12月29日 (火)

執念と運、栄光と挫折の氷

凄かったなぁと率直に思わせられた日曜の全日本フィギュア。もちろん女子の方。
バンクーバー五輪の代表残り2枠を懸ける争いに実質3人の選手が挑みました。
本当に凄かった。
それぞれが背負っているものが番組を通じて感じられたし、神懸かったような空気も感じました。
 
中野友加里選手。
前回五輪は出場を逃し、今回五輪出場のためにこの4年間全てを費やしてきたように見えました。
今季は去年までとかなり雰囲気の変わった、アピールの強い衣装で挑んでいました。
色っぽいなぁ、と思うと同時に気迫も籠もっているなぁとも感じました。
地味なイメージがあった彼女が勝負を賭けている。
「私を観て!」と剥き出しの中野友加里がいるようでした。
五輪に出場できるといいなぁと思いながらグランプリシリーズから見ていました。
正直言って実力的に五輪、そして出場できてもメダルが微妙なポジションに見えましたが、女子スケーターの中では一番好きな選手でした。
 
勝負を賭けたフリー。
ジャンプが決まらず、それでも気迫で頑張りましたが、その分演技を取り巻く空気がどんどん堅くなっているように感じました。
微妙なポイント。
変わろう、壁を越えようと懸命に努力してきた彼女そのまんまのような演技でした。
 
安藤美姫選手。
既に五輪出場内定を得ている微妙なポジションで出場した彼女。
メンタルが決して強くない彼女は最も難しいメンタルコントロールを求められていたと思います。
そして結果も求められていました。それもどういう結果が出ようとも議論を呼びそうな結果を。
 
今の日本の女子スケートの隆盛に彼女が果たしている役割はとても大きいです。
トリノ以前は漫画誌でアイドルのように扱われ、グラビアに出たりしていました。
スケートの選手なのに海に連れて行かれたりして、雑誌の”水着にしたい”という意図がミエミエのグラビアもありました。
でも彼女が作り上げたスケートへの注目のなかで他の選手が注目をより浴びるようなり、今があるとも言えると思います。
残念ながら今の彼女はかつての人気の反動なのか、色々な視線を受けて決して幸福な選手ではありません。
彼女への注目がスケート以外にも注がれる状況はかつてと変わらないまま、その見方はかつてと一変しています。
でも彼女は間違いなく今の日本女子スケート界の主役です。
彼女がいなくなれば、今の彼女の役割を他の女子が背負わされるだけです。
今大会で彼女がいい演技をできるメンタルコンディションではないと誰もが思っていただろうなかで、やはりミスが出ます。
もっと幸せに滑れる空気が彼女の周りにできるといいなあと思います。
私は彼女のことは結構好きです。
 
浅田真央選手。
大会を放送している番組がCMに入るとこれでもかというくらい彼女が出演するCMが続けて放送されます。
それは彼女が一スケート選手の存在ではないことの世間へのアピールとしては十分過ぎるものでした。
彼女が五輪出場権を獲得することだけが大事なんだという周囲からのプレッシャー。
そんなスゴイ重圧の中で彼女は今季最高の演技でそれに応えました。
翌日の日刊スポーツの一面、彼女の明るいイメージとは違う、強さ溢れる表情がそこにありました。
思うように結果が出ず、周囲の重圧のなかスランプに苦しみながら、それを乗り越えた強さを身に付けた表情が印象的でした。
 
実力的には今はキム・ヨナが彼女の上をいっている気がします。
しかし、浅田選手は五輪でさらにその上に到達できるのではとファンに期待を持たせたように見えます。
それにしてもスゴイ19歳の女の子だ。
想像もつかないようなお金が彼女も見えないところで渦のように回り、人の期待や欲が巨大化し、ライバルのヨナはレベルを上げているのに、それらを全て飲み込んで彼女自身が巨大化しているように見えます。
一体どこまでいこうとしているのか?
巨大化する自分自身を彼女が受け止め切れるのか?
イチローのような存在に昇華していくように思える彼女のこの先に少し不安も感じます。
果たしてバンクーバーの彼女は何を成し遂げるのでしょう?
そしてその先...。
最後に演技をした新鋭の15歳の女の子はこれからどう浅田選手と絡んでくるのでしょうか?
 
鈴木明子選手。
1年前まで世間的には無名に近かった彼女が五輪代表選考レースに急浮上してくるとは殆どの人は想像つかなかったでしょう。
もちろん、選手達は彼女の実力を知っていたでしょうけど、最も大事なこの大会で彼女はまさにミラクルを起こしました。
彼女の演技は時間が経つにつれ会場の空気を変えていきました。まるで魔法のように。
序盤のジャンプの直後に転倒。
しかし、それがまるでスイッチだったように何かが発動して、会場の空気を染めていき、全て自分色に染め上げてしまいました。
浅田選手の演技も凄かったですが、空気には緊張感が終始ありました。
「ミスしないでくれ。ミスしないでくれ」といういろんな人の念が漂うなか、それを跳ね返してしまう演技でした。
鈴木選手のフリーにも浅田選手ほどではないにせよ、そういう空気があったはずでした。
中野選手の運命も左右する自分の演技で、彼女が見せたのはそんな演技とも違う、会場を全て自分の色に染めてしまう魔法のような演技でした。
あんなの初めて見ました。
何かが降りてきているような時間。
あれが外国のバンクーバーでまた起きるとは考えにくいですが、考えにくいですが、もし起きたら...。
 
最終的に女子代表は、安藤、浅田、鈴木の3人に。
中野選手は夢破れました。
もちろん、その下にも村主選手らも。
それでもこういう戦いを見れてよかったです。
これほどハイレベルで思いの籠もったコンペティションを観られることは私たち自身も成長につながると思います。
バンクーバーが楽しみになってきたのでした。

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