11月24日(金)駒沢オリンピック公園体育館
バスケットボール男子・W杯アジア1次予選
日本代表 71 - 77 フィリピン代表
W杯予選というと私の場合は1997年に記憶が戻る。
サッカーフランスワールドカップを目指すアジア予選のことだ。
当時は、2002年の日韓W杯開催が決まっていて、日本代表の初出場も確定していた。
だが、開催国枠での出場であり、自力での出場はその時点で達成していなかった。
フランスワールドカップに自力で出場することは、日本のプライドが懸かっていた。
20年も前のことなので、今このブログを読んでいただいている方にどこまでわかっていただけるかわからない。
でも本当に厳しい戦いだった。
追い詰められたときは、試合後、選手と喧嘩になった。イスが選手に投げつけられた。
三浦カズが「やってやるよ!」と殴りかかろうとして静止された。
アウェイ韓国での試合。
1万人以上がソウルへ渡り、7万人以上いたはずのアウェイでホームの借りを返した。
そのあと、ソウル市内をレプリカを着て歩いていた時、「があぁぁぁぁっ!!」と叫び声を聞いて振り返ると、そこには韓国警察の機動隊のバスが。
叫び声の主は、バスに乗っていた、試合を警備していただろう機動隊員で、負けた悔しさが我々を見て爆発したのだった。
最後はマレーシアの田舎に1万人以上が押しかけ、ホームスタジマムを作った。そしてW杯初出場を掴んだ。
W杯出場は皆が一丸にならないと達成できないことだった。
だから普段は仲が悪いJリーグの各チームのサポーターもあのときだけは同じ目標のために自然と一つになっていた。
最も思い出に残るのはホームでの韓国戦である。
今は無くなった国立競技場の周囲に試合開始2日前の夜には数千人の徹夜組が出来て、ひたすら紙吹雪を作っていた。
私のその一人だった。
サッカー者の、それも年寄りの思い出話は嫌われるものだが、あれは歴史に挑む、本当にやりがいのあった戦いだった。社会現象にもなっていた。
あれがなかったら今の私はない。
そして今、同じシチュエーションにいる日本代表がいる。
バスケットボール男子日本代表、AkatsukiFive(アカツキファイブ)だ。
あのときのように3年後の2020年に東京オリンピックが控えている。
だが、大きく違う点がある。
開催国枠が保証されていないことだ。
オリンピックのバスケットボール競技では開催国枠は特例であり、W杯など国際大会で実績を残すことが必要になる。
2年後に中国で行われるW杯に出場し、ベスト16に残ることがその目安になっている。
そのW杯に出場するための一次予選が今回始まる。
相手は、オーストラリア(世界ランク9位)、フィリピン(同30位)、チャイニーズタイペイ(同57位)確かそう。
日本は50位。
一次予選突破は4チーム中3位以上。
でも、サッカーと違い、一次予選を突破することさえ楽じゃない。
戦いがい、応援しがいがたっぷりだ。
これで血が騒がなかったら、私は私自身を否定することになる。
11月24日。場所は駒沢オリンピック公園総合運動場体育館。
ヴォルティスの試合や高校サッカーで隣の陸上競技場にはいくつも思い出深い。
だが体育館は初めてだ。初めての会場はそれだけでワクワクする。
決して大きな会場ではないが、それは関係ない。
本来は代々木を使いたいのだろうが、改修中なので仕方ない。
私はこの日、何日も前に仕事を半休申請し、仕事もこの日に合わせこなし、この日に準備してきた。
午後4時に駒沢着。
まだ人は少ない。チケットについている特典のTシャツを受け取る。
専用の応援グッズを持っていないので有難かった。
当然と言えば当然だが、バスケファンとサッカーファンの気質は真逆に近い。
サッカーファンにはバスケはほぼ意識されていないと思うが、バスケファンから見たらサッカーファンは”下品”に見えているのかなと思うことはよくある。
ファン層の構成、屋内・屋外の差、プロリーグの歴史と実績の差、いろいろ違いがある。
バスケファンにはサッカーの応援は粗くて嫌だと思われているのはあるだろう。
ただ、内側にある熱さは互いを見ていても大きな違いはないように感じる。
もっとも外に出るエネルギーは圧倒的にサッカーが大きい。
豪雨や暴風、極寒・猛暑の中でも試合があり、応援もするのが当然のサッカーでは外に出す熱量は必然的にでかくなる。
それは当然だ。
だが、それは熱意の差を正確に表現しているとは思わない。
これからの日本バスケの歴史の中で変わっていくかもしれないしね。
あのときのサッカーのようにサポーターのリーダー(植田氏のような)がバスケにはいないことも影響しているだろう。
必要なのかは議論の余地があるが。
駒沢体育館の周りは、あのときの国立競技場とは全然違って静かだった。
でも、私はとてもワクワクしていた。
血が騒いでいるのは、あのときと同じだった。
日本代表には千葉ジェッツふなばしから富樫勇樹が選ばれている。
他の選手はBリーグでも旧NBL系の選手たちが多い。
監督はアルゼンチン人のラマス監督。
公式チアリーダーのAKATSUKI VENUS(アカツキ・ヴィーナス)にはジェッツのSTARJETSから3人が選ばれている。
Ayumi、Monomi、Yukoの3人。
アカツキヴィーナスのプロデュースには千葉ジェッツふなばしのSTARJETSをプロデュースする松田華衣さんが携わっている。
そして、MCにはジェッツのRisukeさんがいる。
選手は一人だが、千葉ジェッツふなばしの代表貢献度は高い。
ジェッツファンももっと来てほしかった。知っている顔は見かけなかった。
どのチームのファンが多いとも感じなかったが、川崎のファン(だと思う)が太鼓を持ってきて、Bリーグのような音楽がない試合での応援をリードしようとしているのは印象に残った。
Bリーグと違い、音楽がないので、彼らの存在は応援の大きな力になっていたと思う。
平日の夜の試合というのも影響しているだろう。
駒沢は決して行くのに便利な場所でもない。
ちなみに今回予選のホームは全部平日だ。
次戦は横浜国際プールでこれも行くのに厄介で、今のところ行けるかは未定だ。
最後は千葉ポートアリーナなのでジェッツファンは大勢来てほしい。
世界トップレベルの強豪オーストラリアが相手なので、正直言って勝利はあまり期待できないが。
世界レベルのバスケを自分たちのチームとの対比で見られる貴重な機会になる。
それはきっとバスケットボールを見る目を変えてくれると思う。
会場には大勢のフィリピンの人たちが来ていた。
国技であり、国の英雄たちを応援しにきていた。
遠く祖国から離れた日本に住んでいる彼らにとって、この試合がいかに彼らを鼓舞するかは想像に難くない。
試合直前にもかかわらず、笑顔で記念撮影に応じる選手たちは国民に愛されているのがわかった。
試合後のネットのコメントで、もっとファンが結果に拘らないとという意見もあった。
拘り方にもよると思うが、それはそうだとこの試合後にも思った。
応援することに楽しさは必要だが、今の日本のレベルで試合が終わったらノーサイドで、負けてもエールではW杯レベルには強くできないと思う。
アジア、そして世界で闘う力をつけないと、日本のスポーツでは居場所を失うと思う。
世界の普及度、人気にあぐらをかいてはいけない。
ましてや東京オリンピックで成り上がるチャンスを伺うマイナーなスポーツはたくさんいる。
出られないけどバスケは大丈夫なんてタカを括っていたら絶対泣きを見る。
私はそんなのゴメンだ。
19時、重要な初戦は始まった。
スタメンは富樫勇樹、田中大貴、馬場雄大、アイラ・ブラウン、竹内譲次だった。
格上のフィリピンは序盤から力で日本を圧倒した。
特に際立ったのはディフェンス時の集中力と反応だった。
例えば、Bリーグではインサイドでマーカーを交わしてレイアップに行くと多くて一人しかブロックにこない。
来るのも外国人選手だ。
それも遅れてくるから大概間に合わないし、ギリで間に合ってもブロックの高さがそれほどこない。
だが、フィリピンは違った。
リングに放ろうとした瞬間に二人がリングとの内側に入ってジャンプしてきた。
リングの前に急に柵ができる。
竹内のような長身がシュートにいっても、フィリピンの元NBAの帰化選手のセンター、アンドレイ・ブラッチらが現れて叩き落とされる。
また、アウトサイドでもチームとしての俊敏さのレベルが上で、富樫勇樹がピック&ロールを全くできない。
これは代表チームとジェッツではスクリーンしてくれる選手が違い外国人選手であること、コンビネーションが代表とでは熟成度が違うことも影響しているだろう。
だが、代表の、しかもW杯予選の本番でそれは言い訳にならない。
代表だからだ。
ここでできなかったことは試合結果に直結する。
試合の入り方に失敗してしまい、フィリピンに走らせてしまう。
1Qで早くも3-14と大きくリードを許した。
チームを救ったのは比江島慎だった。
嫌な空気になっていた中で、果敢にリングにアタックして流れを変えた。
シュートファウルを貰いFTで加点していくところからオフェンスを立て直し、次第にフィリピンのディフェンスにアジャストしていった。
それでも、なかなか点差を詰められないまま28-37で折り返した。
富山の宇都直輝も途中出場したが、もっとアタックしてほしかった。
どうなることかと思ったが、後半、日本代表はプライドを見せて試合を変えた。
張本天傑や馬場雄大が奮闘して点差を詰めていくと一気に逆転する。
勝てる!という空気が駒沢の体育館に溢れていく。
日本コールが凄まじくなっていく。
隣の席に座っていたフィリピン人のグループが沈黙していく。
だが...。
やはり強いチームはこういうところでギアを上げてひっくり返す。
それは千葉ジェッツが何度も味わったことだ。
だが、ここではそれをジェッツに経験させた選手たちが突き付けられていた。
再びリードを奪うフィリピン。
最終クオーター、痛かったのは残り5分以上残して5ファウルになったことだった。
判定の基準もBリーグとは違ったことも影響した。
そして終盤、日本代表は運動量も明らかに落ちた。
追いかける展開は正直キツかった。それが最後に出た。
60-70、再び開く点差。
ここで沈黙させられていた富樫勇樹がようやく輝き出す。
フィリピンの運動量も落ちていて、外せなかったマークが剥がせるようになった。
3Pを二つ決める。そしてアイラ・ブラウンのダンクにつなげるパス。
3点差に詰め寄る。
しかし、ここでブラッチが3Pを決めて試合は決まった。
敗因はいろいろあると思うが、ラマス体制になってから準備期間不足だったことがそもそもだったと思う。
しかし、それは仕方ない。
そこは選手たちがどうにかしなきゃいけなかった。
代表に選ばれている選手たちはBリーグ以前から同じリーグ、同じチームでバスケをしている選手が殆どだった。
仲もとてもいい。
だが、それが負けてはいけない試合での、勝てるチームに昇華させるモノとして機能し切れなかった。
もっとバチバチやらないといけないかったのだろう。
選ばれた選手の中に正直、選ぶべきではないコンディションの選手もいて、実際よくなかった。
だが、試合後にファンから名前があがっていた選手がいても結果を変えられた気はあまりしない。
フィリピンはそれくらい強かった。
今からでも遅くない。
W杯はもちろんのこと、東京オリンピックに出られないことが許されるのか考えてみてほしい。
それですべて終わるわけじゃないことは本当だ。
だが、今頑張っていることの殆どが無意味になってしまうことも本当だ。
選手たちはわかっているだろう。
試合後、皆悔しがっていた。
比江島の表情には後悔も浮かんでいた。
ファンも選手たちと同じくらいこの試合の敗北の意味を理解してあげてほしい。
私ももっと理解したいと思う。
こういうストイックで熱いことを言いたがる人間がバスケのファンには好かれないこともわかっている。
だが今、苦しいことに本気で闘わないと、気が付いたら未来は途絶える。
それを気にできる人たちは未来を選手たちと共に切り拓くと思う。
試合後、本当に悔しかった。
帰りの電車の中で悔しくて天を何度も仰いだ。
家に帰ってきて食事しながらため息が何度も出た。
湯舟の中で思い返した。
ベッドに入っても悔しさで寝れなかった。
こんなに悔しさを感じるとは試合前まで思ってもいなかった。
やはりW杯予選はどんなスポーツでも特別なんだと思った。
やはり勝負は勝たないとダメだ。
正直言って普段見ているバスケが甘いんだな、と痛感した。
やれる限り声を出したので咽痛いんだけど、負けたら何にもならない。
勝たなきゃいけない試合で勝たせられない応援なんて応援じゃない。
会場の応援の声は確かに凄かったのかもしれないけど、バスケではのレベル。
サッカーや、勝てた時のバレーはあんなもんじゃなかった。
応援していることに自己満足しちゃダメだ。
あらためてそう思った。
W杯予選とはそう感じさせてくれるモノなんだ。
同じ空気、同じ悔しさ。
20年前と変わっちゃいない自分。
それがあった。
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